脱炭素の取り組みをめぐり、欧州や米国では、これまでの方向性を見直そうとする動きが見られています。欧州連合(EU)の「EU-ETS(排出量取引制度)」と、マイクロソフトの炭素除去の購入停止というニュースから、これらの動きについて考えます。
EUの排出量取引、無償排出枠の方針を一転 40億ユーロ追加
EUでは、2050年のネットゼロに向けた最重要施策として、2005年から「EU-ETS(排出量取引制度)」を実施しています。EU-ETSとは、企業の温室効果ガス(GHG)排出量に上限を設け、余剰分や不足分を売買することで、GHG削減を目指す制度です。
第1フェーズ以降、徐々に規定を厳格化してきましたが、2027年には、制度を抜本的に見直し、「EU-ETSⅡ」の実施を予定しています。当初、「EU-ETSⅡ」には、無償排出枠を設定する予定はないとされていましたが、2026年5月5日、一転して、EUが無償排出枠を40億ユーロ分追加する方針であると報じられました。方針を転換した背景としては、“産業界の懸念への対応”とされています。
マイクロソフトが炭素除去の購入を一時停止へ
世界最大級のIT企業であるマイクロソフトは、「2030年までにカーボンネガティブを実現すること」を宣言しています。カーボンネガティブとは、GHGの吸収量が排出量を上回る状態のことです。この目標に向けて、同社は炭素除去に勢力的に取り組み、世界の炭素除去市場の80%を占める最大顧客となっています。炭素除去とは、大気中のGHGを直接除去する技術で、DACCS(Direct Air Capture with Carbon Storage/直接空気回収)などがあります。
しかし、今年4月には、マイクロソフトが炭素除去の購入を一時停止する方針が報じられました。同社はAIの投資拡大でGHG排出量が2020年比で23%増加するなど、目標の達成が困難になり、財政的な考慮から調達ペースを調整したとされています。
自社にあったGHG削減のあり方を見極める局面に
こうした報道から考えると、排出枠の購入による追加コストが、企業の競争力を阻害する一因になっているのではないかという懸念が透けて見えます。GHG削減の目標を掲げたままではあるものの、欧米における取り組みの方向性が転換していることが見て取れるでしょう。脱炭素において世界をリードしてきた欧州やマイクロソフトの方針転換は、他の国や企業に大きなインパクトをもたらします。今こそ、世界の動向をいち早くキャッチし、本当に自社にあったGHG削減のあり方を見極める局面に来ているのかもしれません。
