温室効果ガス(GHG)排出量算定の国際基準であるGHGプロトコルは、約10年ぶりにScope2ガイダンスの改定を進めています。この改定案をめぐって、Amazonなど66団体は2026年4月22日、条件の緩和を求める声明を発表しました。どのような要求なのか、この声明が世界に与えるインパクトとともに考察します。
Scope2ガイダンス改定案の主要な3つの論点
GHGプロトコルは、2024年秋頃からScope2(企業が購入した電力・熱・蒸気などの使用により間接的に排出されるGHG)のガイダンス改定を進めています。新しいガイダンスは、2027年内をめどに公表される予定です。2025年10月〜2026年1月には、世界中のステークホルダーから改定案について意見を募集する「パブリック・コンサルテーション」が実施されました。
改定案の主要な論点は次の通りで、いずれもマーケット基準が対象となっています。
論点①:排出係数/証書を1時間ごとにマッチング(アワリーマッチング)
電気から切り離された証書を利用するには、電気が消費された時間と1時間単位で合致していることを条件とする案が示されました。
論点②:物理的な供給可能性(デリバラビリティ)
電気と証書は同一の市場から調達され、かつ、供給可能な発電所に由来するものではなければならないとする案です。
論点③:標準供給サービス(SSS、Standard Supply Service)の供給制限
法令などによって社会全体で負担・供給されることが義務付けられている非化石電源については、企業はバウンダリ内の平均までしか主張できないとする案です。例えば、再エネ賦課金を原資とするFIT電源による非化石価値を使用する場合、エリア平均係数までしか主張できないことになります。
Amazonなど66団体が要件の緩和を求める
この改定案に対して、Amazon、アップルなど世界各国の66団体は4月22日、マーケット基準のアワリーマッチングやデリバラビリティの要件化をめぐって、「しなければならない(shall)」から「してもよい(may)」へとアプローチの緩和を求める声明を発表しました。
同団体は、GHG削減に寄与するカーボンフリー電力が普及・拡大するには、企業の自発的な需要が不可欠だとし、電気と証書等を時間単位(アワリーマッチング)で物理的に供給可能な方法(デリバラビリティ)でマッチングさせる今回の改定案に対して、次のような影響が懸念されると主張しています。
- 炭素会計の精度に対するメリットは限定的であること
- 民間部門の行動における非効率性がシステム全体の脱炭素化を遅らせていること
- 自主的なクリーンエネルギー調達を潜在的かつ大幅に阻害しうること
- 個人および企業向け電気料金の値上げ
66団体には、Amazonやアップル(米国)、電気自動車のBYD(中国)といったテック企業をはじめ、ノルウェー政府が出資するスタットクラフトや、スウェーデン政府所有のバッテンフォールといった大手の再エネ発電事業者なども名を連ねています。
多様な事業者がこうしたメッセージを発信したことで、Scope2ガイダンスの改定案は、さらに見直しを迫られていると言えるでしょう。GHG削減に向けたアプローチが、実質的に事業者の負担になっている側面にスポットが当てられ、より本質的で地に足のついたGHG削減の取り組みが求められています。
