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【対談企画】大手企業も注目、カゴメ茨城工場の「上げDR」を深掘り。再エネを社会全体で有効活用するには?

(アイキャッチ画像:カゴメ茨城工場。筆者撮影)

カゴメ茨城工場は今年4月、太陽光発電の出力抑制が行われるタイミングに需要をシフトする「上げDR(デマンドレスポンス)」の実運用をスタートしました。これは、同社が目指す社会全体での再生可能エネルギーの有効活用に向けた取り組みの一環です。7月には、上げDRに関心を寄せた大手企業が見学に訪れました。その際の対談の様子をお届けします。

電力需要をシフトする「アイスビルダー」に着目した理由

(カゴメ茨城工場のアイスビルダー。筆者撮影)

カゴメ茨城工場は2025年4月、太陽光発電などの再生可能エネルギーを社会全体で有効活用するため、「上げDR(デマンドレスポンス)」の実運用を開始しました。上げDRとは、電気の供給量が需要量を上回る場合に、電気の使用量を増やすことです。近年、太陽光発電が昼間に多く発電して発電量が電気の需要量を超えるため、太陽光発電などの出力を止める再エネの出力抑制が全国的に行われています。上げDRをうまく活用することで、こうした出力抑制の低減に役立つと期待されています。

実運用の開始から3ヶ月あまりがたった2025年7月中旬、上げDRの運用方法や仕組みについて、大手企業が情報交換・見学に訪れ、対談を行いました。はじめに、カゴメ生産技術部の河村昌俊さんが、上げDRの取り組みについて説明しました。

「茨城工場では、2台の氷蓄熱式冷却水製造装置(アイスビルダー)を使って電気の需要量を調整しています。上げDRを実施する数日前にReivalueから実施の可能性について連絡をもらい、実施される場合にはアイスビルダーの運転スケジュールを変更するフローになっています」(河村さん)。

続いて、参加者から上げDRについて、さまざまな質問があがりました。「上げDRを実施するにあたって、なぜアイスビルダーに着目したのですか?」(大手企業)。

「アイスビルダーとは、蓄熱槽に氷を蓄えて冷水を供給する装置です。上げDRを行う際に重視したことは、電力需要の調整によって製品の品質へ影響を与えないことです。その点を考慮し、工場内で電気の需要をシフトできる設備を探したところ、アイスビルダーにはその可能性があることがわかり、検討を進めていきました」(河村さん)。

「アイスビルダーの運用を変更することに対して、どのような受け止めがありましたか?」(大手企業)。

「茨城工場では従来、電気料金が安価な夜間にアイスビルダーを稼働していましたが、現在は料金体系が変わっていて、必ずしも夜間の稼働が合理的ではありません。アイスビルダーを導入した当時、夜間に火力や原子力等の従来型発電の電気が余ることから、夜間の電気料金単価が低い電気料金メニューが一般的でした。これは、全国的な傾向だったと思います。しかし、現在は太陽光発電などの再エネが増えたことで、昼間の電気が余剰して安価になっています。生産への影響やこうした変化を考慮して、アイスビルダーの運用方法を見直したことは良かったと考えています」(河村さん)。

実施日の数日前の連絡で稼働スケジュールを調整

(アイスビルダー専用の電力計測装置。筆者撮影)

さらに、上げDRの具体的な運用方法にも強い関心が寄せられました。「上げDRを実施するフローについて、詳しく教えてください」(大手企業)。

「上げDRを実施するかどうかは、その日の天候に左右される部分が多く、晴天だと太陽光発電が多く発電して出力抑制が実施されるため、上げDRを実施することになります。実施の見通しをできるだけ立てやすくするために、全体コーディネーターであるReivalueが、実施日の約1週間前と数日前に上げDRの実施可能性についてメールで連絡をくれます。これを受けて、当社はアイスビルダーの稼働スケジュールを変更します。特別なシステムを導入する必要がなかったことで、実施のハードルが下がったと感じています」(河村さん)。

続いて、Reivalueの堀口公希さんが、アイスビルダーによる上げDRを評価する仕組みについて説明しました。

「アイスビルダーには個別の電力計測装置を設置して、アイスビルダーの稼働状況を遠隔からリアルタイムで確認できるようにしました。DRそのものの評価は、国のERABガイドラインに基づいて工場全体の電力デマンドに対して行いますが、他の設備による電力需要の変化も工場全体のデマンドに影響を及ぼします。そのため、アイスビルダーが指示通りに稼働したとしても全体のデマンドに反映されず、DRの実績を割引として還元が難しいケースも想定されます。こうしたケースを防ぐため、電力計測装置を個別に設置し、計測、評価をさせていただいています。このようにして、本来、出力抑制により埋没してしまう再エネの電気を利活用しやすくする仕組みを構築しています」(堀口さん)。

カゴメ茨城工場の篠田雅一さんは、こうした運用方法について次のようにコメントしました。

「電力計測装置にロギング機能が搭載されているので、アイスビルダーの稼働状況を遠隔から把握しやすいと感じています。この計測情報は、専用のアプリを通じて確認できることから、本社と工場で情報を共有でき、使い勝手が良いと感じています」(篠田さん)。

上げDRのノウハウを活かして他の工場でも検討

(茨城工場では紙パック野菜飲料や乳酸菌飲料が作られている。筆者撮影)

カゴメは1899年の創業以来、トマトジュースや植物性乳酸菌飲料などの飲料事業、トマトソースやケチャップといった家庭用・業務用食品事業、生鮮トマトやベビーリーフなどの生鮮野菜事業といった、自然の恵みを活かした商品作りを国内外で展開しています。自然環境とつながりが深い事業の特性から、「持続可能な地球環境を目指す取り組みには、とりわけ力を入れています」と河村さんは強調します。

同社は、環境への取り組みの一環として、国内の工場に太陽光発電を導入して、事業活動で使用する電気を再生可能エネルギーに切り替え、温室効果ガス(GHG)の削減に取り組んでいます。2024年8月には、富士見工場(長野県)に蓄電池システムを導入し、従来、発電の出力を抑えていた既存の太陽光発電の最大限の活用を実現しました。

「この先、太陽光発電などの再エネがさらに普及すると、上げDRの重要性はますます高まっていくと思います。今回の茨城工場での上げDRを通じて得られたノウハウを活かして、他工場での取り組みを検討していきたいと考えています」(河村さん)。

新たなチャレンジと工夫でコストとGHG削減に挑む

(カゴメ茨城工場で行われた対談インタビュー。筆者撮影)

近年、世界的な燃料価格の高騰などから、需要家の間で電気料金のコストアップが喫緊の課題の1つになっています。それと同時に、長期的にGHG排出量の削減も進めていかなければなりません。足元では、太陽光発電の導入などによってGHGプロトコルのスコープ2(間接排出)の削減の取り組みが加速しています。スコープ2とは、他社から供給された電気・熱・蒸気を使うことで、間接的に排出されるGHGを対象としています。

今回、参加した大手企業からは、「電気料金とGHGの削減に向けて、自社でも太陽光発電の導入を進めており、GHG削減の手応えを感じています。しかし、スコープ2のGHG削減が進めば進むほど、この先はスコープ1(直接排出)をいかに削減するかが課題になると感じています」という意見が上がり、参加者の共感を得ていました。

国は2050年カーボンニュートラルという目標を掲げており、多くの事業者も中長期的なGHG削減目標を公表しています。太陽光発電などの導入はもちろんのこと、再エネを社会全体で無駄なく活用する取り組みの重要性が増しています。また、GHG削減に向けた取り組みに関しては、個々の事業者によって抱えている課題が異なる一方で、国や国際イニシアチブのルール変更などの動きも激しい状況です。上げDRや分割供給といった新たな取り組みによって再エネの有効活用を進めるカゴメには、今後のさらなる展開に期待が高まっています。

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当社は、コスト削減やカーボンニュートラル実現に向けたエネルギーソリューションの提供と、ソリューションを実践し培った知見に基づくエネルギーのアドバイザリーや実務支援を行っております。お客さま毎に異なるニーズに合わせて、環境目標達成に向けたソリューションを”具体的に”ご提案させて頂きます。再エネ電力調達、CO2削減に関するお困りごとがありましたら、お気軽にお問い合わせください。

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